羽生と浅田に酔う

GPファイナル男子SPは羽生の独り舞台になった。
昨年歴代最高得点(当時)を記録し、すでに完成の域にあった「パリの散歩道」を、今年も引き続き演じることは、得点の上積みが望めるのかどうかを考えたとき、かなり微妙な判断に思えた。事実、エリック杯では最高の演技をしたと思えたにもかかわらず、昨年の得点とほとんど同じであった。羽生の演技に拍手を送る傍らで、これ以上の得点を望めないのであれば、次々と最高得点を更新するチャンに追いつくのは難しいのではないかと思っていた。

しかし羽生はいつもいい意味でこっちの予想を裏切ってくれる。今日の4Tの素晴らしさはどうだ! これだけきれいな4Tははじめて見たといってもいい。そして振り向きざまの3Aの見事さ。この2つのジャンプに多くの審判が+3をつけたのは当然である。さらにスピンも美しさを増し、ステップは音楽と完全に一体化して、もう昨年とは全く次元の違う動きになっていた。もし最後のスピンの小さなミスさえなければ初の100点越えになっていただろう。この若者は本当に想像を超えるスピードで進化を続けている。これからの活躍にますます目が離せなくなってきた。

99.84という異次元の得点を目にしては、さすがに町田もチャンも平静ではいられない。二人ともかわいそうな結果になってしまったのは残念だった。できればチャンにノーミスの演技をしてもらった上で、羽生の得点との比較をしたかった。しかし、チャンにミスがあったとはいえ、ついに演技構成点で羽生がチャンを上回るという、新しい時代の幕開けを十分に感じることができた男子SPであった。

女子SPではついに浅田の満足のいく演技を見ることができた。72点という意外に低い得点だったが、ビデオで見ると3Aが「グリ降り」っぽく、回転不足をとられたようだ。しかし、浅田の3Aが着地後にこれだけきれいに流れるのを見るのは初めてだし、3Fもよく流れている。ジャンプの不安が少なくなり、スピードが戻っているために、演技全体が女性らしい美しい動きの中で流れるように進んでいく。さらにスピンはどのスピンも軸がしっかりしてポジションが素晴らしい。「ノクターン」の再演は8年前をすべての点で凌駕している。何よりも笑顔の中でオリンピックシーズンを進められていることが浅田の充実ぶりを物語っている。ぜひこの調子でソチに臨んでほしいと思う。

羽生は進化し続ける

エリック杯男子FS、羽生は4Sと4Tを失敗して、昨日の記事で期待したような状況は実現しなかった。今日のようなプレッシャーのあまりかからない状況でのびのびと演技すれば、チャンに死角は全くない。

チャンのどこが素晴らしいのか。それは演技のすべてにおいて「フィギュアスケート」という競技がが目ざしている理想に限りなく近づいている点にある。演技中の姿勢の美しさはもはやバレエの演技のようである。つねに背筋が伸び、下半身が安定しているために、体全体を使ったステップにおいても上半身が常にまっすぐ美しく、難しいステップを踏んでいるという印象を与えない。ジャンプにおいては前動作が小さく、軸がまっすぐできれいな回転軌道を描き、着地後はすっと滑らかに流れる。スピンはもともと定評があるとおり、教科書のお手本のような正確さで回転する。もはや派手な音楽で無理やり会場を盛り上げる必要はなく、静かで落ち着いた曲の中で情感を込めることができる。こういう演技が演技構成点で各項目9点を大きく超えることのできる演技なのである。

では羽生はチャンに敵わないのか?今回の30点の得点差は挽回不可能なものだろうか?差は決して小さくない。しかし、大きな得点源を2つも失敗し、およそ15点以上を失ったことを考えると、今回のFS168点は破格の高得点である。一昨年は体力の限界の中でその一途なひたむきさが評価された「ロミオとジュリエット」だったが、今回は体力的な破綻がない中で、羽生の考える「ロミオとジュリエット」の世界観がよく表現できていたと思う。軽くふわっとした部分も、情熱的で激しい部分もよくメリハリが利いていて、以前と比べて格段に表現力が増していた。現時点で演技構成点でのチャンとの約15点の差は現実として受け入れざるを得ないが、進化をし続けている羽生なら、何とか勝負できるところまでいけるのではないかと思う。

チャン強し、しかし羽生も負けてなお強し、そのことを感じた大会であった。

羽生vsチャン 世界最高レベルの戦い

ゴールデンタイム放送なしの小さい扱いながら、今朝早く放送されたエリック杯男子SPには心から痺れてしまった。

まず、何と言ってもチャンの演技は本当に素晴らしかった。スケートの滑らかさは他の選手とは全く違う。まっすぐできれいな4T-3Tを決めると、静謐の中のストレートラインステップは、誰もがもうただただ見入ってしまうしかないという演技であった。最近わりと取りこぼしのあるキャメルスピンの乱れこそあったが、それ以外は完璧な演技で、世界最高得点も納得である。

そしてチャンの作った神々しい雰囲気が会場全体を支配する。普通の選手ならもうそれだけでそこに自分の世界を作りあげることは不可能だろう。羽生にとって自分を試される最高の舞台が設定された。そして羽生はその試練に打ち勝った。

今シーズン不安のあったジャンプをことごとく完璧に成功させると、ステップではチャンとは全く違う羽生の世界を作り上げることに成功した。この人の演技はいつも見る者の胸を打つ何かがある。演技構成点でチャンに約3.5点の差をつけられたが、これならば十分勝負になる点差である。

しかし羽生のこの精神力の強さはどうであろうか。演技後に愛嬌を振りまく姿は可愛らしささえ感じられるほどであるが、信念の強さ・向上心の強さ・負けん気の強さは他に類を見ないほどである。この人はまだまだ進化する。そう確信させるに十分な演技であった。

明日のFSは羽生とチャンの順番が逆になる。羽生が会心の演技をすることができたとき、今度はチャンが試される番になる。必ずしも精神力が強くない(と私は見ている)チャンが、羽生の演技を見て平常心で演技をすることができるのか、大きな見所だと思っている。そのためにも、羽生にはFSでもぜひ最高の演技を見せてほしいと願っている。



町田覚醒!

スケートアメリカ男子、町田が驚異的な得点で優勝した。SPでの90点越え、FSでの170点越えは超一流の証し、ソチ五輪での日本代表はおろか、表彰台まで狙える得点だ。

今回の演技を見るまで、日本男子の「6強」のなかでは、町田が一番可能性が低いと思っていた。昨シーズンいかに活躍したとはいえ、この4回転時代に4回転なしでは到底対抗できないし、力強さの点でも他の選手に及ばないと思えたからだ。

ところが今回4Tをほとんど確実に決め、軸が傾きながらも力強く3Aを決めた姿に、もはやひ弱さはまったく感じられない。しかもSPの「エデンの東」の完成度は驚異的ですらある。おそらくこの人は未完成の不確実な技を人に見せることをよしとしない、志の高さを持った人なのだろう。チャンと同じように初めて4回転を披露したときはもう完璧に自分のものにしていた。もはや脇役ではなく、堂々の主役級に躍り出た感がある。

羽生の大ブレイクがフェルナンデス・レイノルズ・テンらの覚醒を促し、さらに町田がそれに続いたことで、ソチ五輪は最高のレベルの戦いになる予感が大である。

小塚は怪我の具合がよくないのだろう。ジャンプの踏ん張りが利かず、ステップでの踏み込みも浅い。もともと彼の基本に忠実で美しいスケーティングは大好きで、大いに応援しているのだが、これだけ怪我の影響が大きいと、演技のすべてに影響して彼本来の実力が発揮できない。もし気力が続くのなら、怪我を完治させることを優先して、平昌に目標を切り替えてほしいという気もする。

高橋も、口には出さないが股関節かひざの怪我を抱えているのではないだろうか。ことごとくジャンプの踏ん張りが利かず、演技後半でのへばりが目立つ昨シーズン後半からの姿は、もはや不調の一言では説明がつかないように思う。心情的にはソチで完成された「ビートルズメドレー」を見せてほしいと思うのだが、その場に立てるかどうか、黄信号がともった状態だと思う。体調さえ整えば演技構成点でチャンを上回る可能性の有る唯一の選手であるだけに、何とか回復してほしいと祈るばかりである。

これからGPに登場の羽生・織田・無良は、海外の結果を文字情報で見る限り、いずれも好調な滑り出しをしたようだ。当事者の選手には気の毒な状況だが、これからGPファイナル・全日本に向けての戦いを大きな期待を持って見続けていこうと思う。




浅田、上々の発進

ジャパンオープン2013、浅田がオリンピックシーズン上々の発進をした。

実は、昨年度(といっても今年のことであるが)の世界選手権には強い衝撃を受けた。長期休養明けの金ヨナにああも完璧に滑られては、他の選手は勝負にならない。しかも金だけでなく、コストナーにも演技構成点で後塵を拝してしまった浅田が、ソチで金メダルを狙うのはもう無理なのではないかとさえ思ってしまった。

浅田の今年度はじめての演技を、そんな不安を感じながら見守ったが、心配は杞憂であったようだ。表情がいい!そして、浅田の体が大きく見える。これはバンクーバーシーズンの頃にはなかったことで、よい練習ができていることからくる自信がそう見せるのではないかと思う。

技術的には3Aの両足着氷、コンビの3Lo・3Tがいずれも2回転になってしまったこと、3Sの回転不足など、まだまだの部分があるのは確かだが、これは十分修正可能で、もう大きな問題とは思えない。3Lzは相変わらずeマークだが、減点はわずか、これはもう気にせず、このまま行ってもよいと思う。昨年度のジャンプはいかにも修正途上という感じだったが、今年は余裕を持って跳んでいるように見える。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、もう最高だ! 3Aに向けて期待が高まっていく感じやステップの盛り上がり感など、浅田の演技にぴったりの好選曲だと思う。これは相当に点の出やすいプログラムになるだろう。事実、今日の演技で(ミスがありながら)135点ならば、このプログラムが完成した暁には150点を軽く越えてしまうかもしれない。そうなれば、もう誰にも負けることはないだろう。

浅田好発進、そのことを強く感じさせた今日の演技であった。

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